六本木ヒルズからの七転八倒

【七色編01】スロプー生活、開始

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「……さん」

暗闇から、優しい声が聞こえた。声の主が誰なのかと考えようとしても、脳がまるで嵐の中を航海する船のようにグラグラと揺れている。私は揺れに耐えようと、手近にあったものを掴んだ。その感触は柔らかく、得も言われぬ安心感があった。

ゆっくりと深く呼吸を整え、頭の中を整理する。ここはどこで、声の主は誰なのか。この暗闇から抜け出す方法は……。考えようとすればするほど、脳の揺れは大きくなった。

「……ください、……さん」

さっきよりも少しだけ明瞭さを増したその声で、私は今の状況を理解することができた。そして、この暗闇から抜け出す方法も把握した。だが、今はまだここでじっとしている方が得策だ。この声に反応してはいけない。なぜなら、私は今……

 

「起きろ!!この寝坊助!!」

プラスチックと金属がこすれる音と共に、私の暗闇に明かりが差し込んできた。それと同時に、私に安心感をもたらしてくれた温かくて柔らかいものも、無残にも剥ぎ取られてしまった。今が二月だということを、彼女はわかっているのだろうか。

「もう七時半だぞ!早く準備して!!」

「あぁ……大きい声出さないで……頭痛い」

カーテンを開け放たれた窓から、健康的な光がこれでもかと差し込んでくる。

「もう!強くないくせにあんなに呑むからでしょ!ほら!起きろ!」

声の主は案の定、森裕子だった。

三ヶ月前、私は大学生協のCD売り場でのアルバイトを辞めた。新しく入ってきた店長とそりが合わなかったのだ。ありがたいことに、私を引き止めてくれる声もあったのだが、男に二言はないとばかりに、袖にしてしまった。

そのことを裕子に話すと、彼女は事も無げに言い放った。

「じゃあ、スロットで稼げばいいじゃん!」

それから程なくして、裕子は頻繁に私の部屋に入り浸るようになった。ほとんど半同棲状態だと言っていい。もちろん、大人の恋人同士なのだから、傍から見れば自然な流れに映るだろう。だが、彼女にはもうひとつの目的があったのだ。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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