六本木ヒルズからの七転八倒

【七色編12】「昨日……やんな?」

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男はグレーのコートを背もたれに掛け、赤いネクタイで首元に大きな逆三角形を作っていた。私は隣の台のデータ表示機を見るフリをして、その男の顔を確認した。やはり高垣さんだった。

高垣さんは時折、盤面の左下にある告知ランプを睨みつけていた。だが、昨日のジャグラーの時のように、両手でトンネルを作って覗きこむことはしていない。昨日のあの行動は一体なんだったのかと思い返していると突然、高垣さんがこちらに顔を向けた。予期せず目が合ってしまった私は驚き、思わずデータ表示機から手を離した。狼狽する私をよそに、高垣さんは笑顔で私に会釈をしてきた。私はさらに狼狽したが、大人の嗜みとして笑顔を作って会釈を返した。

「昨日……やんな?」

高垣さんが何か話しかけてきたが、二台隣で鳴り響くビッグボーナスのファンファーレにかき消されて、正確に聞き取ることができなかった。だが、高垣さんが両手で麻雀牌を倒すような仕草をしてくれたので、だいたいの想像はついた。

私は雀荘のある方角を指差して、同じように麻雀牌を倒す格好をしてみせた。高垣さんは満面の笑みで二度頷き、隣の椅子をトントンと叩いた。どうやら座れということらしい。私はこの台を打つつもりなどなかったのだが、仕方なく腰を下ろし、財布から千円札を取り出した。すると、高垣さんは自分の下皿から両手一杯のコインを掴み、私の台の下皿へと流し込んできた。私は慌てて顔の前で手刀を振ったが、高垣さんは無言の笑顔で――いいから打て――とばかりに、私の台を指差した。私は「すみません」と眉を掻いて、コインを掴みとった。

私は、コインがなくならないように、ゆっくりとゲームを消化した。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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