六本木ヒルズからの七転八倒

【七色編18】よぉ見えんのよ。

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「あ……いや、ちょっと早いと思います。……っていうか、まだかなり赤いですよ」

「……そうか」

高垣さんはボソっとつぶやいて、掴んでいた肉を網の上へと戻した。私はテーブルに落としたタマネギを箸で掴もうとしたが、なぜか箸が震えてうまく掴めず、左手を添えて網の上に放った。

しばらく、沈黙が続いた。網の向こう側では、この店のウリのひとつでもある紀州備長炭が、赤々と燃えている。肉の色が赤から茶色へと変わり、香ばしい匂いが鼻へと届く。

いい具合に焼けたタン塩をトングで掴み、網の上で高垣さんの方へと寄せる。それを箸で掴んだ高垣さんは、またしても肉を睨みつけた。今度は裏側も丹念に睨みつけている。そして、何かに納得したように皿へと置き、半月形にカットされたレモンを手にとった。レモンの絞り汁が肉へ滴り落ちるのを見ながら、高垣さんの唇が動いた。

「俺な……。よぉ見えんのよ。色弱やから」

一瞬、空気が止まった。網の上で肉が焼ける音だけが、鼓膜を揺らす。あまりに突然の告白に、私は言葉を失った。高垣さんは私の方を見ようともせず、レモンに向かって言葉を続ける。

「『色覚異常』ってヤツやな。色弱にもいろいろあるんやけど、俺は『赤』と『緑』がわかりにくいんよ……。せやから、焼肉も滅多に食わんねん。焼け具合がイマイチわからんからな」

高垣さんは自嘲気味に笑った。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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