六本木ヒルズからの七転八倒

【乗打編05】『ノリ打ち』って何?

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「あの二人もスロットやるんだってよ」

阿久津さんたちと出会った次の日の夜、裕子は私が住むアパートの台所に立っていた。

「メール着たの?」

裕子は右手に菜箸、左手に携帯電話という格好で「うん」と答えた。台所からカレーの香りが漂ってくる。これほどまでに人の食欲を掻き立てる香りが存在するのかと、腹の虫が騒いでいる。

「しかも結構勝ってるってよ」

裕子は携帯電話を見ながら、菜箸でサラダ用のプチトマトをつまみ食いした。それを見ていると私も我慢ができなくなり、台所へと立った。クツクツと煮立つカレー鍋を目の当たりにし、口の中に大量の唾液が分泌される。

「さっきルー入れたばかりだからね!あと十五分くらい待ってください!」

「……ハイ」

私は仕方なくプチトマトを手づかみで口に放り込んだ。プチトマトは新鮮で美味しかった。だが、私の口の中はすでにカレーの受け入れ体制が整っていたため、なんとも物足りない感じがした。

「ところでさ……」

裕子は携帯電話に目を落とした。私が「何?」と尋ねると、裕子は携帯電話の画面をこちらに向けた。

「『ノリ打ち』って何?」

「ノリ打ち?あぁ、ノリ打ちねぇ……」

私は眉をひそめて天井を見上げた。ふと、天井の隅に蜘蛛の巣ができていることに気がついた。その中心に小さな蜘蛛が佇んでいる。今、この蜘蛛の存在を口にすると、虫嫌いの裕子が料理を放棄しかねない。私は蜘蛛の存在は口にせず、視線を天井から裕子の顔へと降ろした。

「『ノリ打ち』っていうのはね、『喜び二倍、悲しみ半分』って意味だよ。孔子の『論語』の中に出てくる言葉だね。中学校で習ったでしょ?」

私がそう答えると、裕子の右側の眉だけが下がった。明らかに不満そうな表情だ。カレーが煮立つ音と、換気扇が回る音だけが室内に響く。その空気に耐えかねて私がカレー鍋を覗きこむと、裕子は鍋のフチを菜箸でカツンと叩いた。

「食べたかったらキチンと説明しなさい!」

「……ハイ、スミマセン」

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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