六本木ヒルズからの七転八倒

【乗打編06】さすが、ヒキ強お嬢様だ。

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私は冷蔵庫からペットボトル入りの緑茶を取り出して、一口喉に流し込んだ。

「『ノリ打ち』っていうのは、何人かでスロットを打ちに行ったときに、収支を均等に分けるやり方だよ。わかる?」

裕子は菜箸を咥えて、まるで小動物のように小首を傾げた。私は眉尻を掻きながら続けた。

「例えば、俺と裕子の二人でスロットを打ちにいくとするでしょ?そこで、俺は福沢諭吉一人分負けちゃったとする。裕子は福沢諭吉二人分勝ったとしよう。この場合、二人合わせると福沢諭吉一人分のプラスってことだね。だからそれを二人で仲良く分けて、新渡戸稲造一人分ずつプラスにしましょう、ってこと。わかる?」

「誰よ、そのイナゾウとか言うの」

「……五千円札に書かれてるおじさんだよ。とにかく、そうやって勝っても負けても半分にするやり方を『ノリ打ち』って言うの。もちろん、人数が増えればその人数で頭割りにするけどね」

裕子は「ふーん」と口を尖らせながら、オタマでカレー鍋をかき混ぜた。大きめのジャガイモが顔をのぞかせる。徐々に味が染みこんできているようだ。

「でもさ、それだど悲しみは半分かもしれないけど、喜びも半分じゃない?自分の勝ちが減っちゃうじゃん?」

さすが、ヒキ強お嬢様だ。私のような凡人とは思考回路が少し違うらしい。

「まぁ……その、今の例えだと確かにそうだけど、立場が逆だったら嬉しいでしょ?一人で打ってたら負けだったハズなのに、相方のおかげでプラスになるんだよ?」

裕子は額の汗を袖で拭ってから、オタマから直接カレーを味見した。何も言わないということは、良い出来なのだろう。もっとも、市販のカレールーを使って不味く作る方が難しいだろうが。裕子は食器棚からカレー皿を二つ手に取り、炊飯器の横に並べた。しゃもじの表面を水にさらし、炊飯器を開けようとした時、裕子がこちらを向いた。

「それ聞いただけだと『ノリ打ち』って大してイイ作戦に思えないんだけど?そんなにメリットあるの?あと、ご飯どれくらい食べる?」

裕子が炊飯器のボタンを押すと、白い湯気が立ち上った。

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長崎 正吾

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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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