六本木ヒルズからの七転八倒

【乗打編12】『ノリ打ち』の件は……

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酒屋の角を曲がると、私の住むアパート『ヒルズ石神井公園』が見えてきた。六本木ヒルズから取ったのかビバリーヒルズからなのかは知らないが、木造二階建てのアパートにはかなり荷が重いネーミングだ。鉄製の赤茶けた階段を、足音を立てないように静かに登り、一番奥の角部屋を目指す。郵便受けから飛び出たピンクチラシをむしり取り、鍵を差し込む。ガチャリと鍵の開く音とユニゾンするように、背後から裕子の声が聞こえた。

「持ち合わせが無かったんだって」

私は裕子の言葉を脳内で咀嚼してから、ドアノブに手を掛けたまま振り返った。

「ご飯代って三千円ちょっとでしょ?」

裕子は無言で頷いた。部屋の明かりを点けると、裕子はパンプスを脱ぎ捨て、フラフラとリビングへと向かい、おもむろにベッドへと飛び込んだ。私は持っていた雑誌を床に放り、冷蔵庫からペットボトルの緑茶を取り出した。

「アタシも飲む」

裕子はベッドにうつ伏せになったまま、だらしなくこちらに手を伸ばした。私がペットボトルを手渡すと、裕子は体を起こして、そのまま口をつけた。

「ふぅ、美味しい。……でも、なーんか変な感じがするんだよねぇ。何なんだろ?」

裕子はため息交じりに肩を落とした。

「阿久津さん、なんでお金無かったんだろうね。何か言ってた?スロットで負けたのかな?」

裕子はかぶりを振った。

「お母さんが虫垂炎で入院してたんだって。それで昨日、退院したらしいんだけど、その入院費とか手術費を立て替えたからお金無かったんだって。給料日が明後日だから必ず返すって言ってくれたけど。別に返して欲しいわけじゃないんだけどさ。ちなみにあの子、今も『スター』だってさ」

「なるほどね。でも、それならしかたないんじゃない?タイミングが悪かったんだよ。それでも久しぶりに裕子と会えるからって、無理して来てくれたんでしょ」

「うーん、それはそうなんだけどね……」

裕子はまだ何か腑に落ちない様子だったが、私は正直、阿久津さんと大神田さんの『ノリ打ち』の方が気になっていた。私は裕子が持っていたペットボトルを受け取ると、残りのすべて喉に流し込んだ。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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