六本木ヒルズからの七転八倒

【乗打編28】『設定5』じゃんかよ!

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「恵にね、先に帰るかもって言ってきちゃった」

サラリーマン金太郎のビッグボーナスを消化していると、裕子が肩越しから顔を出し、耳元で言った。私は携帯電話を取り出して時刻を確認した。十九時を少し回ったところだった。

「でも、みんなでご飯食べるんじゃなかったの?」

私が言うと、裕子は小さくかぶりを振った。

「そんな気分じゃないもん。恵だけだったらいいけどさ……」

裕子は一瞬だけ私から視線を外し、背後のシマへと目を向けた。その視線を追いかけると、そこにはコンチ4Xで三箱目に突入した大神田さんの姿があった。私は視線を裕子に戻すと、二三度頷いた。

「それにアタシ、お金無くなっちゃったよ」

「マジで?」

裕子は口を曲げて頷いた。

「あの台、全然ダメじゃん!ジャグラーつまんないし」

「……だから途中で言ったじゃん、移動すればって」

「できないでしょ!休憩スペースにいるのもヤだったしさ。それよりさぁ……」

裕子は一瞬だけ斜め上に目線をやった。私はその視線の先を追わずとも、その目に映っているものが何なのかを理解できた。

「アレはどういうことなの?」

私がおどけるように肩をすくめると、裕子はその左肩に右ストレートを叩きこんできた。今日のパンチはいつも以上に重みがあった。

「ゴメンゴメン、だって分かるわけないじゃん。だから俺の隣で打てばって訊いたのに」

「正吾が低設定だって言ったから打てなかったんでしょ!」

「あんなの適当に言っただけだよ!」

私が言うと、裕子は背筋を伸ばして私を見下ろすような格好をして、口を真一文字に結んだ。

隣の台には『設定5』の札が燦然と輝いていた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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