六本木ヒルズからの七転八倒

【乗打編31】インド人のアナンドさん

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「阿久津さんはいい人だね。目押しも上手いしさ」

「……うん」

『スロットトヨタ』を出て、池袋駅まで歩く。その道中には風俗店が軒を連ねる。反対の方角に一本路地を入ればラブホテル街だ。そんな街に今さら嫌気が差したわけでもないだろうが、裕子は浮かない顔でうつむいている。

「なんなんだろうね、あの人」

「ホントだよ、もう……」

細い道を抜け、大通りへと出る。大型家電量販店の前では、一台でも多くの携帯電話を売らんとする店員達が、鉢巻を巻いて大声を張り上げている。そもそも、あんなに高性能な携帯電話が、なぜ一円で売られているのか。私はポケットの中で、自分の古めかしい携帯電話を握りしめた。

「お腹すいたでしょ?何か食べていこうか?」

私がそう言うと、裕子は少し笑って頷いた。

「何がいい?焼肉か寿司か……」

「あ、やっぱダメだよ!」

裕子が周囲の喧騒に負けないくらいの声を出した。ちょうど赤になった横断歩道の端で、私は立ち止まった。

「このへんでご飯食べてたら、恵たちと鉢合わせになっちゃうかもしれないよ。石神井まで帰ってから食べよ」

裕子は疲れもあったのか、僅かに目を潤ませていた。

「それもそうだね。じゃあ石神井だったら……『崋山楼』で中華食べるか?」

「脂っこいのヤダ!」

「じゃあ『コルカタ』でインドカレーは?」

「イイね!久しぶりじゃない!それにしよう!」

裕子は私の背中をバンバンと何度も叩いた。私たちを見る周囲の目が若干気になったが、裕子が元気を取り戻したのならと、甘んじて受け止めることにした。

石神井公園駅で降りた私たちは、『コルカタ』で40cmはあろうかという大きなナンに舌鼓を打った。やはりタンドール釜で焼いたナンは格別だ。オーナーシェフであるアナンドさんは今日も穏やかな笑顔を浮かべている。

満腹になった私たちが自宅へと戻ったの時には、午後九時半を回っていた。裕子はバッグをテーブルの上に置くと、ベッドにだらしなく倒れこんだ。それとほとんど同時に、『サンダーV』の着信音が室内に鳴り響いた。裕子は寝転がったまま「携帯取って」と手を伸ばした。私は裕子のバッグの中から取り出した携帯電話を手渡した。

「……恵からだ」

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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