六本木ヒルズからの七転八倒

【乗打編60】『なりたくない大人』

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サラ金のシマに着くと、裕子は下皿に残っていたコインをドル箱へと移し始めた。それを見ながら、私は下皿の左側にある備え付けの灰皿をくるりと半回転させた。軽い手応えと共に、手のひらに数枚のコインが踊った。それを親指で広げる。4枚のままだった。私が裕子の顔を見て頷くと、裕子も無言で頷き返した。

「悪いなぁ。東京来て小遣いまでもろて。今度、ステーキ奢るからな!彼女さんも一緒にな!」

「そうですね、是非。期待してます」

高垣さんが肩を組んできた。まったく気さくで良い人だ。高垣さんのような大人になりたいと思うと同時に、『なりたくない大人』がいる方を振り返った。背後のコンチ4Xを遊戯している大神田さんのことだ。

だが、そこには大神田さんの姿は無かった。離席しているのかと思い、肩に置かれた高垣さんの手を丁重に剥がし、その台に近づく。下皿には一枚のコインも残されていない。顔を上げると、台上にあるはずのドル箱が無くなっている。大神田さんは離席しているのではなく、ヤメてしまっていた。

私は狼狽した。大神田さんは何枚獲得したのか。それがわからなければ、今日一日の裕子の頑張り――と、大神田さんから受けた不愉快な言動――が、全て無駄になってしまう。

私は裕子に「あとはよろしく」とだけ耳打ちして、すぐにコインジェットのある方へと走った。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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