六本木ヒルズからの七転八倒

【乗打編65】「嘘つき!!」

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阿久津さんは肩から下げていたバッグを胸の前に持ってきて、その中に手を入れた。大神田さんの両手はズボンのポケットに入ったままだ。交差点を左折してきた車のヘッドライトが、一瞬、阿久津さんの顔を照らした。その顔は、笑っていた。

私は二人から目をそらし、隣に顔を向けた。裕子は僅かに下唇を噛み、身じろぎ一つせず、じっと二人の方を見つめていた。

よほどバッグの底の方に埋もれていたのだろう。阿久津さんは財布を取り出すのに苦労していたが、「よっと」という可愛らしい声に合わせて、白い二つ折りの財布が顔を出した。阿久津さんは財布を開き、紙幣を一枚取り出した。赤信号ギリギリで左折してきた車のヘッドライトが照らしたのは、一万円札だった。

「はい、今日の分ね」

「悪いね、いつも」

大神田さんはその一万円札を親指と人差し指でつまみ取り、額の前に掲げた。眉尻を下げ、少しだけ口角を上げたその表情からは、阿久津さんに対する後ろめたさを演出しているように見えた。私は、緊張を抑えるために深く息をつき、最後の一歩を踏み出した。

「それ……今日のノリ打ちの収支ってことですか?」

大神田さんは、受け取った一万円札を丁寧に四つ折りにし、胸ポケットにしまい込んだ。

「そうです。僕の引きがもっと強ければ良かったんですけど……。結局、チャラくらいしか出せなかったんでね。また、恵に助けられましたよ」

大神田さんは頬を掻きながらそう言った後、阿久津さんに微笑みかけた。阿久津さんは穏やかに微笑み返した。決して等価交換ではない『微笑み』のやり取り。それを見て私は、二人に『正しいレート』を伝える覚悟をした。

背中を伝う汗を感じながら、大きく息を吸い込み、男の名を呼ぼうとした瞬間だった。裕子が私の手を痛いくらい強く握りしめた。

「嘘つき!!」

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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