六本木ヒルズからの七転八倒

【乗打編72】最後の一個

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翌日、私は昼過ぎまで惰眠を貪った。長時間寝ることができるのは若い証拠だというが、腰や背中の痛みで目覚める私は果たして若いといえるのだろうか。重たいまぶたをこじ開けると、テレビを見ている裕子の背中が目に飛び込んできた。その傍らにはカップラーメンの容器が見える。それが朝食なのか昼食なのか、はたまたブランチなのかは分からなかったが、それが最後の『非常食』だということだけは、寝ぼけた頭でも理解できた。

「最後の一個……食ったな?」

枕に突っ伏したまま私が言うと、裕子がこちらを振り返った。

「おはよ、そりゃあ食べるさ。もう食べ物何も無いよ」

さも当然のように言うと、裕子はテレビの方へと向き直り、音量を上げた。寝ていた私に気を使ってくれていたようだ。私は布団の上で身体を起こし、両手で顔を何度も拭った。

「なんか……飲み物あったっけ?」

私が尋ねると、裕子は無言で立ち上がり、キッチンへと向かった。一人暮らし用の小さな冷蔵庫から緑茶のペットボトルを手に取ると、静かにテーブルへと置いた。

「はい、コレ飲んで目覚してください、寝坊助さん」

裕子は淡々とした口調で言った。それは、表面上はいつもの裕子のようだったが、何か違うものを感じた。やはり、というか当然というべきか。昨夜の出来事が尾を引いているのだろう。

私はペットボトルのフタを開けようとしたが、寝起きでなかなか力が入らず、開けることができない。

「女子か」

裕子は小さくつぶやくと同時に、自分自身でも笑った。私もつられて笑った。久しぶりに、裕子の笑顔を見た気がする。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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