六本木ヒルズからの七転八倒

【乗打編76】『昨日はありがと』

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「恵だ……」

裕子は真剣な顔でメールを読み始めた。私はベッドに腰掛けて、閉め切っていたカーテンを静かに開けた。気のない素振りを演じてはみたものの、内心は阿久津さんからのメールの内容に戦々恐々としていた。元はといえば、私の興味本位で始めたことだ。それによって、おそらく二人の関係を崩壊させてしまったのだから、『良かれと思ってやった』など言い訳にもならない。私は意味もなくベッドシーツのシワを伸ばしたりしてみた。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、視界の端で裕子の顔が一瞬ほころんだように見えた。その顔が朗報であることを期待して、私は裕子に尋ねた。

「阿久津さん、何だって?」

「んー?んっとね、『昨日はありがと』だって」

「……それだけ?」

「『彼とは別れました』」

「マジで!」

私は思わず声を上げた。それと同時に、どこか安堵している自分に気がついた。何が正解なのかはわからないが、それなりにベターな着地点に降りたのではないだろうか。私の安堵に呼応するかのように、裕子は深いため息をついた。

「はー良かった。『今度、ご飯食べに行こう』って言ってくれてるよ。もー嫌われちゃったかと思ったよ。というわけで、今度ご飯行ってくるね。あんな男でも別れちゃったんなら慰めてあげなきゃ」

そう言って、裕子は阿久津さんへの返信を打ち始めた。携帯電話のカチカチという操作音を聞きながらふと窓に目をやると、穏やかな午後の日差しが降り注いでいた。こんなに天気の良い日に若い男女が部屋の中でゴロゴロしているなど人生の無駄使いだ。肩の荷が下りたせいか、妙に元気が湧いてきた。

「よし!天気も良いし、スロット行くか!」

「天気関係あんの?」

そう言った裕子の顔は、いつもの屈託のない笑顔へと戻っていた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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