六本木ヒルズからの七転八倒

【乗打編77】「ヤダ!」【終】

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「高垣さんに会ったらステーキ奢ってもらわなきゃだしね」

「そうだ!あのおじさん、あの後何枚出したのか気になる!」

裕子はバッグに携帯電話と財布を放り込んだ。私は急いで着替えを済ませ、財布をズボンのポケットへ滑りこませた。後頭部に寝ぐせがついているような気がしたが、気にしない事にした。

「はいはい、行きますよー!」

裕子が玄関でパンプスを履きながら私を急かした。単身者向け賃貸の狭い玄関では、二人同時に靴を履くことは不可能だ。私は家の鍵を付けたキーホルダーを人差し指に引っ掛けて、クルクルと回しながら裕子がパンプスを履き終わるのを待った。

「よし!準備完了!忘れ物ない?軍資金は持った?」

「大丈夫だろ。昨日も勝ったのにロクなもの食べてないんだから、財布の中身減ってないよ」

「なら良し!」

裕子は勢い良く玄関のドアを開け、私が靴を履くのを仁王立ちで待った。その顔は、晴れ晴れとしていた。靴を履き、部屋の明かりを消し、外へと出た。ほぼ真上から降り注ぐ陽の光に、思わず目を細めた。

「カギ、忘れないでよ!」

「わかってますよ」

私がドアにカギを掛けるのを見届けると、裕子はさっさと歩きはじめた。この元気の良さが本来の裕子だ。私はなんだか嬉しくなった。そんな後ろ姿を見ていると、イタズラ心、というわけでもないのだが、不意にとある質問を投げかけてみたくなった。

「裕子」

私が呼び止めると、裕子は振り返って「ん?」と少しだけ眉を上げた。

「俺らも『ノリ打ち』にしようか?」

裕子は突然の問いかけに驚いたように背筋をピンと伸ばした。そして、視線を斜め上に外して僅かに考えている素振りを見せたが、すぐに私の目を真っ直ぐ見つめた。

「ヤダ!」

それだけ言って、私の最高のパートナーは、くるりと身を翻して歩きはじめた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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