六本木ヒルズからの七転八倒

【人魚編01】「話したいことあるんスよ!」

初めてのスロットを経験した翌日、私はいつものように『ライズ』に出勤した。普段と変わらない素振りで仕事の準備をしていた私だったが、心の中では「あの心地良い喧騒」を反芻していた。

同僚たちと談笑しながら開店準備をしていると、堀口が遅刻ギリギリで『ライズ』のドアを勢いよく開けた。

「セーフっスよね!?セーフっスよね!!あぶねー!!」

『ライズ』には多少の遅刻をイチイチ咎めるような規則も風土も無い。それでも、適当な性格の堀口ですら普段は開店10分前には出勤していた。

「おはよう。ここまでギリギリなのも珍しいね。電車一本乗り損なったの?」

挨拶がてら、堀口にその理由を聞いてみた。

「いやー、ちょっとワケあって別の路線から来たんで時間かかちゃったんスよ!」

そのチャラチャラした口調は今日も健在だ。

「へーそうなんだ。ところで昨日のスロットなんだけど……」

「あー、それっスね!あとで話しましょう!俺も話したいことあるんスよ!」

昨日は結局どれくらい出たのかを聞き出しつつ、また連れて行ってくれるよう頼む算段だったのだが、堀口はそそくさと従業員用のロッカーへと消えてしまった。

遅い昼食休憩も終わった午後3時。この時間帯は雀荘が最も暇になる。午後5時を過ぎれば会社帰りのサラリーマンでごった返すのだが、それまではいわば「空白の2時間」となる。

私は、店の一番奥にある麻雀卓を点検するフリをしながら、堀口に手招きをした。今朝、聞きそびれた話を聞くためだ。堀口は胸ポケットにしまってあったマイルドセブンを取り出しながら、ニヤけた顔で近寄ってきた。その顔から察するに、昨日はさぞかし大儲けしたのだろう。

「昨日は悪かったね、先に帰っちゃって。ところで、あの後何枚くらい出たの?」

早々に撤退したことを軽く詫びてから、どれくらい出したのかを聞いてみた。

「プラス1000枚くらいッスね!夕方前にはヤメちゃったんスけどね!」

1000枚か。1万円使って何も当たらなかった私と比べれば十分スゴイのだが、思っていたほどではなかった。

「おー、さすが!スゴイねぇ。でさぁ、今度の土曜日……」

「そんなことより話していいっスか!!」

軽いヨイショをしつつ、次の土曜日にまたスロットに連れて行くよう頼もうとしたら、その言葉を遮って堀口が興奮気味に話し始めた。

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  • 「プラス1000枚くらいッスね!」「プラス1000枚くらいッスね!」

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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