六本木ヒルズからの七転八倒

【人魚編15】はぁ……美しい

――うおっ、またかよ!

謎の男との接近遭遇から僅か8ゲーム。左下に鎮座する貝殻が、またしても淡い光を放ってこちらに微笑みかけてきた。

――はぁ……美しい

時間にしてほんの1、2秒の間ではあるが、私はその光に吸い込まれるようにボーっと見とれてしまった。

おそらくパネルの裏側にあるのは小さな豆電球ひとつなのだろう。小学校の理科の実験で、電池を直列や並列に繋げてピカピカ光らせても何の感動もなかったが、この豆電球はワケが違う。私の感情を激しく揺さぶる荒々しい力を持っている。

だが、いつまでも感動に浸ってもいられない。私には「ボーナス図柄を揃える」という大きな仕事が待っている。

――大丈夫、落ち着いてやればきっとできる

二台となりの老人が「またかよ」といった表情で私の台を覗きこんできたが、そんなことは気にする必要はないと自分に言い聞かせ、レバーを叩いた。

さっきはかなり焦ってストップボタンを押してしまったので、今度は少しだけタイミングを遅らせて止めてみる。

――これだな。キラッ……キラッ……ハイッ

心の中で唱えた掛け声に引き寄せられたかのように、金髪の人魚がスルリと顔を出した。

――ヨッシャ!

本当は小躍りしたくなるくらい嬉しかった。だが、そんな感情はおくびにも出さず、これくらい当然といった顔で中リールの人魚を狙う。

――少し遅目に、キラッ……キラッ……ハイッ

「テロリッ」という、ボーナス図柄がテンパイした時だけに鳴る特別な停止音が聞こえた。フーっと少しだけ息を整え、右リールのストップボタンに静かに親指を乗せる。

――さっきと同じだ、少し遅目に、キラッ……キラッ……ハイッ

その瞬間、パッと目の前が明るくなり、つい数分前に聞いた派手なファンファーレが耳に飛び込んできた。またしても歓喜の時が訪れた。背後のシマの客達がこちらを振り返っている姿が、私の台のパネルに反射して見えた。私は得も言われぬ高揚感と優越感に浸った。

しかも今回は、これまでのボーナスとは大きく意味が異なる。誰の力も借りず、たった一人でこのビッグボーナスを獲得したのだと胸を張って言えるのだから。

スロットに関しては幼稚園児だった私が、新品のランドセルを背負って小学校に入学するくらいには成長したかな?などという、いささか綺麗すぎる例えを思いながら、三度目のビッグボーナスを消化していった。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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