六本木ヒルズからの七転八倒

【人魚編19】大きく欠けた前歯

しゃがれたその声の主は、二度目のビッグボーナスを揃えてくれた男だった。その男は、私の台の上にある満タンの箱と、今まさに下皿のコインを移し替えている箱を交互に見ながら皮肉っぽく言った。

「もう二箱目か!やるやんけ!羨ましいのぉ!」

その男のギョロリとした目と大きく欠けた前歯がなんともいえない気持ち悪さを感じさせた。

この男に深く関わってはいけないと本能的に感じ取った私は、愛想笑いを作り、軽く会釈だけして台へと向き直った。その直後、私は両肩にズシリとした重みを感じた。

「兄ちゃん!タバコくれや!」

男は私の両肩を強く揉みしだきながら、馴れ馴れしくも厚かましい要求してきた。

「あ……俺、タバコ吸わないんで」

「ほーそうか、まぁ頑張りや!」

男は私の両肩をバンッと一度強く叩き、背後のジャグラーのシマへとフラフラと歩いていってしまった。

――なんなんだよ、あの男。痛ぇし……

私は男に掴まれた両肩を軽くはたき、気を取り直して自分の台へと向き直った。

 

時刻は午後2時過ぎ、台の上に設置されたデータロボは「450」を表示していた。まさかあの男が「勝利の女神」だったわけではないだろうが、私は初めての大きなハマリに動揺していた。あの男にタバコを要求されるまでは遅くとも200ゲームくらいまでには当たっていたというのに。

下皿にあったコインが全て無くなり、台の上に置いていた二箱目の方からコインを移す。下皿のコインを箱に移すときはビッグボーナスのファンファーレが鳴り響いている中での作業なので気持ちも高揚するが、逆の作業は実に寂しいものだった。

このハマリはいったいいつまで続くのだろうか。今までとは一転して減り続けるコインと反比例して、私の不安は増すばかりだった。

――ちょっと堀口のとこ行くか……

→NEXT【人魚編20】赤いハンカチ

profile

長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
  • 性別:
  • 誕生日:
  • 血液型:
  • 出身地:
  • 好きなもの:
  • 嫌いなもの:
  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

calender

5月≫
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

戻る