六本木ヒルズからの七転八倒

【人魚編20】赤いハンカチ

二階に上がり、クランキーコンドルのシマを端から覗いてみると、一人黙々と遊技する千夏さんの姿が見えた。だが、その隣にいるはずの堀口の姿が見えない。近づくと、千夏さんはこちらに気が付き、軽く会釈をしてくれた。

「あれ?堀口は?」

そう尋ねると、千夏さんは声は出さずに口の動きだけで「トイレ」と教えてくれた。

「あ、そうですか」

こうなると堀口が戻ってくるまで手持ち無沙汰だ。しかも、まだ完全には打ち解けていない千夏さんと、うるさいスロット屋の店内とはいえ二人きりだ。この状況は実に気まずい。千夏さんも、私と何か会話すべきなのか無視して打ち続けていいのか図りかねているように見えた。

何か話のネタは無いかと、二人の台のデータロボを見てみると、堀口は大当たり7回、千夏さんは8回と表示されていた。すでに10回のビッグボーナスを引いていた私は、少しだけ優越感を抱いた。

その時、千夏さんが私の背後に向かって手招きをした。私が振り返るとそこには、赤いハンカチで手を拭きながらこちらへと歩く堀口の姿があった。

「調子どうッスか?出てまスか?」

そう言うと堀口は、赤いハンカチを乱雑に四つ折りにして、千夏さんに手渡した。千夏さんはそのハンカチを受け取ると、一度広げてからあらためて丁寧に四つ折りにし、バッグの中にしまいこんだ。

「それがさぁ、今450ゲームハマっててさ。このまま打ち続けていいのか、やめた方がいいのかと思って」

「あーマジッスか!?そうッスねー、ビッグとレギュラーって何回ずつッスか?」

「え?えーとね、ビッグは10回で、レギュラーは……」

「あと、総ゲーム数ってどれくらいッスか?」

「ええ!?ゴメン、ちょっと見てくるわ」

「そうッスね!ココ押せば見れますよ!」

堀口はそう言って、自分の台の上にあるデータロボの『データ』と書かれたボタンをポンッと押した。

「オッケー、ちょっと待ってて」

私は慌てて階段を駆け下り、プチマーメイドのシマへと走った。

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  • 千夏さんと二人っきりの時間は気まずい。堀口よ、早く戻ってきてくれ・・・千夏さんと二人っきりの時間は気まずい。堀口よ、早く戻ってきてくれ・・・

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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