六本木ヒルズからの七転八倒

【人魚編27】胸熱フラッシュバック

『スロット デルタ』を出ると、陽が西に傾きだしていた。自分の身長よりも長く伸びた影を追って、私は水道橋駅へと歩を進めた。前回、クランキーコンドルを打ったときは、後悔と未練で一杯の帰り道だったが、今日は違う。一歩一歩が充実感で満たされている。

もちろん、1000枚以上のプラスだったということも嬉しいのだが、それと同じくらいに、入店から始まり、コインを借り、ピンクの貝殻を光らせ、自力でボーナスを揃え、コインを計数する。というスロットの一連の流れを今日一日で経験できたことが嬉しかった。

――次は、一人で来てみようかな

私はすっかりスロットの虜になってしまった。またあの貝殻を光らせたい、金髪の人魚を揃えたい。たった今、店を後にしたばかりだというのに、もう次の機会を想像して胸が躍った。

――そういえば、貝殻が光ってなかったのにイキナリ人魚が揃ったことがあったな

駅のホームに電車が滑り込んできたとき、私は堀口に聞きそびれた疑問を思い出した。あれは一体なんだったのだろう。それと、堀口はクランキーコンドルのビッグボーナスを消化するとき、中リールから押していたが、あれも意味があるのだろうか。知的好奇心が刺激される。

電車に揺られること二十数分。自宅の最寄り駅に降りた私は、駅前にある小さな本屋へと足を運んだ。そこで、今までは競馬と麻雀しか興味がなかった「趣味・実用」コーナーへと向かった。

――あるとすればこのあたり……お、あった

「競馬ブック」「週刊ギャロップ」に並んで、数冊のスロット雑誌を見つけた。その中の一冊を手に取ってパラパラとめくってみると、そこには様々な機種の写真と情報が溢れていた。それを見た私は、数十分前の光景がフラッシュバックし、自然と胸が熱くなった。

――よし、勉強しよう

まるで高校生が大学受験のための参考書でも買うかのような決意で、私はそこにあったスロット雑誌すべてを持って、レジへと向かった。

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  • 胸が熱くなる胸が熱くなる

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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