六本木ヒルズからの七転八倒

【入札編01】信頼度30%のエントリーシート

←BACK【コラム】新章は「ネットオークション監視員」【072】

それは、予想の範疇を超えるものではなかった。

「なんでそんなことすんの!!」

その声に熱がこもっていないこともわかっていた。私は無視して作業を続けた。

「いい加減にしないと……別れるよ!!」

裕子は膝に抱えていたクッションを何度も叩いた。
構わず私はパソコンのキーボードを叩き続けた。

「普通は逆だろ?」

モニタに顔を向けたまま尋ねた。しかし裕子は何も答えなかった。

全ての項目に必要事項を入力し、確認画面へと進む。住所、氏名、電話番号、それ以外にも誤字脱字がないかをくまなくチェックする。問題がないことを確認し、送信ボタンをクリックした。

――『エントリーが完了しました』

手続きが正常に完了したことを告げる一文を確認すると、大きなため息を吐き出した。椅子を180度回転させて足を組み直し、テーブルに置かれたコーヒーを口にする。すっかり冷たくなってしまっていて、お世辞にも美味いといえる代物ではなくなっていた。

コーヒーカップの脇から裕子の顔をチラリと見ると、彼女は子供のように口を尖らせていた。私はカップを静かに置いてから、あらためて訊いた。

「さっきの『いい加減にしないと別れる』っていう演出の信頼度は何パーセントくらいなんだよ?」

裕子は一瞬呆れたように口をぽかんと開けたあと、視線を天井に向けて考え始めた。

「30パーセント」

彼女は視線を下ろし、まっすぐこちらを見つめた。

「ということは、70パーセントはハズレるんだな。その程度の信頼度なら大丈夫だろ」

「そういう問題じゃないでしょ!!」

「何がだよ?だいたいどうしてスロプーの彼氏が仕事始めようとしてるのを止めるんだよ?普通は逆だろ?」

そう諭すと、裕子は口をへの字に曲げて何度も頷いた。はいはい分かりましたよ、とでも言いたげな顔だ。

翌日、いつものように二人でパチスロに興じていると、携帯にメールの着信があった。昨日、エントリーした会社からだった。
本文を確認すると、面接の日時と場所、それと履歴書を持参するようにと記されていた。

気持良く連チャンしている裕子の機嫌が悪くなると面倒なので、私は黙って携帯を閉じた。

→NEXTパソコン版【入札編02】首都高の下にバスケットコート

→NEXTスマホ版【入札編02】首都高の下にバスケットコート

profile

長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
  • 性別:
  • 誕生日:
  • 血液型:
  • 出身地:
  • 好きなもの:
  • 嫌いなもの:
  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

calender

4月≫
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

戻る