六本木ヒルズからの七転八倒

【入札編117】奪われた糸

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美瑠希の方を向くと、彼女は自分の顎のあたりを指差してこちらをじっと見つめていた。

――何?

電話の向こうの快人に聞こえないように、口の動きと表情だけで美瑠希に伝えた。

その意図を正確に汲んでくれたのだろう。
美瑠希は私の耳元を指差してから、その指先をまた自分の顔へと向けた。
まさかとは思うが、電話を変われと言っているようだ。

――変わるの?

私は左手で持っていた携帯電話を右手で指差して、美瑠希との間で指を行き来させた。

すると、美瑠希は神妙な顔でゆっくりと頷いた。

私は眉間にしわを寄せて大きく首を傾げてみせた。美瑠希の気持ちも分からなくはないが、今このタイミングで美瑠希と変わるのは、正直言って怖い。

――ダメだよ

口の動きと横に振った首の動きで美瑠希に伝えた。まだ言葉を話せない子供でもその意図を理解できるくらい、明確でわかりやすいジェスチャーだ。

「休憩時間、まだ大丈夫なの?」

不意に快人が話しかけてきた。意識が美瑠希の方に向いていた私は、驚きながらも無理矢理言葉をつなげた。

「あぁ、まだ大丈夫かな」

「一分でも遅れると山倉がうるさいよ。自分はちょくちょくタバコ休憩取ってるクセにな」

「確かに」

共通の敵がいると結束が固くなるとは、こういうことだろう。私と快人の間につかの間の緩和が生まれた。

次の瞬間、携帯電話を握っていた左手の甲に、温かいものを感じた。
それが何事なのかを理解すると同時に、私は美瑠希に携帯電話を奪い取られてしまっていた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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