六本木ヒルズからの七転八倒

【入札編118】痴話げんかを盗み聞き

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一呼吸おいて、美瑠希は携帯電話を自分の耳元へとあてがった。

「もしもし?」

彼女の声は、まるでそよ風が撫でる湖面のように、ほんの僅かに震えていた。
私は居ても立ってもいられないいられなくなり、意味もなくベンチから立ち上がった。

「うん……そう」

快人が美瑠希に何か言ったのだろう。それに美瑠希が答える。
なんとなく、痴話げんかを盗み聞きしているような気分だ。

私はベンチに置いていた紙パックのお茶を手に取りストローを咥えた。自分でも気づかなかったが、思いの外のどが渇いていたようだ。残っていたお茶を一気に飲み干すと、ストローがズズズッと間抜けな音を立てた。

いたたまれない気分に後押しされるように、私は数メートルほど離れたゴミ箱まで紙パックを捨てるためにゆっくりと足を動かし始めた。

「本当に辞めるの?」

はっきりとした口調で、美瑠希が言った。
私はその言葉を背中で聞きながら、ゴミ箱に紙パックを放り投げた。

美瑠希は、私が座っていたあたりをぼんやりと見つめたまま、快人の話に耳を傾けていた。快人は一体何を彼女に伝えているのだろうか。

「でも……仕事まで辞めることないんじゃない?」

美瑠希は懇願するように言った。

だがその願いは、果たして本当に快人のためを思ってのことだろうか。
私は、そんなうがった考えが脳裏をよぎる自分自身が少しだけ嫌になった。

公園の向こう側で、アウトドア派のおじさんが洗濯物を干し始めた。
首都高速に陽の光を遮られ、陰干しになってしまっていた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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