六本木ヒルズからの七転八倒

【入札編119】『形あるものは、いつか壊れる』

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「うん……うん……」

時々頷きながら、美瑠希は快人に相槌を打っている。頭上を走る首都高速の音がうるさいのか、美瑠希は髪を少しかき上げて右耳を塞いでいた。

私はベンチから少し離れた場所からその様子を見守ることしかできなかった。
一体ふたりがどんな話をしているのだろうか。快人は、仕事を辞める理由を美瑠希に何と伝えているのだろうか。

様々な妄想が頭の中を駆け巡ったが、どのルートを辿ってもバッドエンドにしか到達できなかった。

「そっか……うん。わかった」

しばらく続いたふたりの会話も、美瑠希の口ぶりから終りが近いことを感じ取ることができた。私が美瑠希の前まで歩み寄ると、彼女は顔を上げた。

――どう?

私が口と眉の動きでそう尋ねると、美瑠希は眉をひそめてかぶりを振った。
私は大きくひとつ息を吐き出した。やはり、最初から無理だったのだ。

ふと、ある言葉が脳裏をよぎった。大昔の『こち亀』の中で、大原部長が自慢の骨董品を両津勘吉に壊されたシーンだ。怒りに震える大原部長になぐさめの言葉をかける麗子巡査。そのなぐさめに対して言ったセリフだ。

『形あるものは、いつか壊れる』

当時幼かった私の心に、重く響いた言葉だった。

今この瞬間、おそらく『何か』が壊れたのだ。

それが何なのかはわからないが、元々は影も形も無かったのではないか。
それを面白半分で形にしてしまったばかりに、壊れてしまったのではないだろうか。

「うん……じゃあ変わるね」

美瑠希が携帯電話を耳元から離し、こちらに差し出した。
その顔は、何の感情も有していないように、全くの無表情だった。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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