六本木ヒルズからの七転八倒

【入札編131】盗み聞き

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――富士美瑠希

そう表示された携帯電話を見て、そういえば美瑠希の苗字は富士だったな、などとどうでもいいことが頭をよぎった。
私はこの電話に出るという決断を下すまでに、三回のバイブレーションを要した。
すでにリビングにいる裕子の耳にもこのバイブ音はおそらく聞こえているだろうし、仮にここで電話に出なかった場合、あとで着信履歴を覗き見なんてされた日には、どんな追求を受けるか分からない。

そもそも、私と美瑠希の間にやましい事は何も無いのだ。会社の同僚と堂々と電話をすればいいだけではないか。

そう決断し、私は通話ボタンを静かに押した。

「もしもし?」

電話口の向こうにいる美瑠希にそう呼びかけた瞬間、リビングのドアが開いて裕子が顔を覗かせてきた。私は、電話に出たことを若干後悔した。

――もしもし、お疲れ様。今って電話しても大丈夫?

美瑠希の声色がいつもより控えめで、なんだか耳の中の産毛を撫でられているような気分になった。

「なんでそんなとこで電話してんの?こっちですればいいじゃん」

美瑠希の声を遮るように、裕子がひときわ大きな声を上げた。
私は反射的に人差し指を口の前に立てた。

裕子は憮然とした表情でリビングのドアを閉じた……と思ったらすぐにまたドアを開け、ズカズカと私の方に歩み寄ってきた。

何をするのかと思っていたら、私の肩をグイッと引き下げて、携帯に自分の耳を押し当ててきた。

――あ、ゴメン。彼女さんが来てるんだね。

消え入りそうな美瑠希の声が、私と、そして裕子の耳に届いた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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