六本木ヒルズからの七転八倒

【入札編135】シール、無し。

←BACKパソコン版【入札編134】女の子用品
←BACKスマホ版【入札編134】女の子用品

その時、リビングとキッチンを隔てるドアが開く音がした。
私は慌てて『新井薬局』の袋から手を離した。

裕子がドアの隙間から顔をのぞかせてきた。その顔は目が合った瞬間は無表情だったが、私が買い物袋を漁っていたことに気づいたのか、急に表情が曇った。

「何してんの?」

裕子の冷たい声がキッチンに響いた。

「いや……別に」

私は意味もなく両手をズボンで拭くような仕草をした。だが、裕子は私が何を見つけたのかを気づいているかもしれない。いや、その前提で話を進めたほうが賢明だろう。私は『攻撃は最大の防御』という言葉を思い出しながら裕子に尋ねた。

「何か……最近、体調でも悪いの?」

「別にそんなことないよ。なんで?」

「あ……そっか。それなら別にいいんだけど」

「生理用品見るのがそんなに楽しい?」

突然の物言いに私の心臓は強く脈打った。

「は?」

「今、薬局の袋、漁ってたでしょ?」

「あぁ……」

「最近、薬局で働き始めた友達がいてさ。その娘からたくさん試供品もらってきちゃったんだよ」

「へー。そうなんだ」

「化粧品なんかは使ってみないとわかんないからね。ラッキーでしょ」

「なるほどね。確かに」

「もういいから、早くピザ頼もうよ。お腹空いちゃった」

「そうだね、悪い悪い」

そう言って私はキッチンの灯りを消し、リビングへと戻った。
すぐに、ピザの注文の電話をかけた。
裕子が選んだのは、4つの味が楽しめる『クアトロジャイアント』だった。
私はピザ屋のオペレーターにそれを伝えた。

オペレーターが注文を復唱している間、私はぼんやりと先ほどのことを思い返していた。

生理用品の下に転がっていた妊娠検査薬には、『試供品』のシールは貼られていなかった。

→NEXTパソコン版【入札編136】1/100,000,000のフラグ(終)
→NEXTスマホ版【入札編136】1/100,000,000のフラグ(終)

profile

長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
  • 性別:
  • 誕生日:
  • 血液型:
  • 出身地:
  • 好きなもの:
  • 嫌いなもの:
  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

calender

5月≫
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

戻る