六本木ヒルズからの七転八倒

【入札編31】「二人で帰ろ」

←BACKパソコン版【入札編30】爪の垢を一気飲み!
←BACKスマホ版【入札編30】爪の垢を一気飲み!

18時になり、仕事を終えた者から順に部屋を出ていった。この職場は残業がほとんどなかった。仕事が残ったら明日やればいいというスタンスだ。

私もキリの良いところで仕事を切り上げ、パソコンの電源を落とした。足元に置いていたバッグを手に取り立ち上がると、部屋には私と快人と美瑠希、そして本田の四人しか残っていなかった。

本田は始末書をぼんやりと見つめていた。横目で覗くと、何行か文字を埋めた形跡があった。指先ではクルクルとボールペンが回っている。

「お疲れ様です。お先に失礼します」

いつのまにか席を立っていた美瑠希が、本田に頭を下げた。本田は「お疲れ様」と低い声で言った。

「快人もお疲れ」

美瑠希が言うと、快人は少しだけ首を回して、窓に向かって会釈した。せっかく美瑠希のような気立ての良い女性が挨拶をしてくれているというのに、なんという態度だろうか。そもそも、彼と面と向かって挨拶を達成した人物はいるのだろうか。そんな疑問が頭をよぎった。

「長崎さんも仕事終わったんなら帰ろ」

美瑠希にそう言われると、なんとなく照れくさい気になってしまい、思わず快人に声を掛けた。

「じゃあ俺と美瑠希は外で……」

待っていると言おうとしたところで、美瑠希に腕を小突かれた。驚いて美瑠希の顔を見ると、眉を寄せてこちらを睨みつけてきた。どういうことかと私が眉を上げると、美瑠希はそれを無視するように視線を外した。

「それじゃあ快人、また明日ね」

美瑠希は快人の背中に向かって言うと、私の袖口を掴むようにして部屋の外へと連れ出した。

部屋のドアを閉じると、美瑠希は口の前に人差し指を立てた。

「始末書で友達待たせるのは快人も辛いよ。だから今日は二人で帰ろ」

美瑠希はエレベーターに乗り込んで急かすように手招きをした。
快人には申し訳ないと思いつつも、私の頭の中では美瑠希の「二人で帰ろ」というセリフが何度もリピート再生されていた。

→NEXTパソコン版【入札編32】飲み会に、という嘘
→NEXTスマホ版【入札編32】飲み会に、という嘘

profile

長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
  • 性別:
  • 誕生日:
  • 血液型:
  • 出身地:
  • 好きなもの:
  • 嫌いなもの:
  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

calender

9月≫
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

戻る