六本木ヒルズからの七転八倒

【入札編33】「ウチに泊まっていく?」

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翌朝、軽い二日酔いの頭を抱えて職場のドアを開けると、珍しく美瑠希の方が早く出勤していた。

私が「おはよう」と声をかけると、美瑠希は挨拶を返してからしばらくこちらの顔をじっと見つめてきた。まるで、昨夜のことを何か言いたげな顔だ。私が少し眉を上げると、納得したように視線を外してくれた。

昨夜のパスタ屋はワインが自慢らしく、店のマスターは当然のようにそれを勧めてきた。だが、私はそもそも酒に強くない。しかもワインなんて今まで飲んだことがなかった。それを素直に白状すると、マスターが初心者にも飲みやすいという赤ワインを用意してくれた。

確かにマスターのいう通り、そのワインは口当たりも良く、飲みやすかった。
だが、それがいけなかった。アルコールとの付き合い方を知らない私は、どうやら許容量ギリギリまで胃袋に収めてしまったらしい。

そこからは記憶が断片的だ。どこかの駅で地上に出たシーンと、タクシーの運転手に料金を払ったシーンは記憶しているのだが、それ以外は覚えていない。目が覚めると、自宅のベッドでひとりで寝ていた。幸いにも裕子は実家に戻っていたので、無用な追求を受けることはなかった。

それにしても一体いつ美瑠希と別れたのか。それすら定かではなかった。

ただ、べろべろに酔っ払った私をどこかの路上で介抱してくれていた美瑠希が、「ウチに泊まっていく?」と言ったシーンが脳裏をよぎった。

記憶は自分の都合の良いように捏造されるものだが、あれは果たして現実だったのだろうか。

窓際の席にバッグを置いてからもう一度美瑠希の方に顔を向けると、視線に気づいたようにこちらを振り向いた。私が無言で肩をすくめてみせると、彼女はいたずらっぽく舌を出した。

いよいよ記憶が混濁してきた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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