六本木ヒルズからの七転八倒

【入札編35】聞くまでもない理由

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「とりあえず、本社との会議があるから……またあとでこっちから電話する。いいな?」

本田は強く念を押してから受話器を置いた。苦虫を噛み潰したようなその顔を見て、私はたまらず立ち上がった。

「快人からですか?」

尋ねると、本田は背もたれに体を預けて頷いた。

「辞めるって言ってるんですか?」

立て続けに問いかけると、本田は否定とも肯定ともつかない素振りで首を振った。

「まだ決まったわけじゃないが、とりあえず今日は休みだ」

室内に短い沈黙が流れた。美瑠希が持っていたコップを、音を立てないようにそっと置いた。

「理由はなんて言ってるんですか?」

「この仕事に向いてないから……だとさ。何ヶ月もやってきて、今さら何を言うんだろうね、彼は」

本田は呆れたように肩をすくめると、机の上の書類を片付けながら続けた。

「とりあえず俺は本社と会議があるからすぐに出る。あとは山倉、いつも通り頼む。それと長崎くん」

射るような視線とともに呼びかけられ、思わず体が硬くなった。私は「はい」と答えて視線を絡めた。

「快人は君の教育係だったわけだけど……。何か心当たりはある?」

本田の表情からは、私に何を求めているのかわからなかった。もちろん、心当たりならばここにいる全員の胸の中にあるはずだ。それをわざわざ私に尋ねるということは、私の口から言わせたいのだろうか。

私は悩むように顎に手をあて、心当たりの方――山倉の顔を見やった。山倉は憮然とした表情で唇を突き出していた。その態度を見て、胸やけのような不快感が腹の底から沸き上がってきた。この男のために仕事を辞める必要などない。そう強く思った。

私が意を決して口を開こうとした時、それを遮る声が弾けた。

「山倉さんがあんなことしたからに決まってるじゃないですか!」

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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