六本木ヒルズからの七転八倒

【入札編44】耳まで真っ赤に

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「はい、コレあげる」

美瑠希の手にはチロルチョコが握られていた。それを快人に差し出すと、快人は手のひらを出して受け取った。続けて私にもひとつ手渡してくれた。

「ありがとう、チロルチョコなんて久しぶりに食べるな」

社内における社交辞令的行動に対し、私も謝意に雑感を交えて答えた。実に社会人的だなと我ながら思った。

それにひきかえ、快人はもらったチョコを手のひらに置いたまま、震度1で揺れた赤べこ人形のように、ほんの僅かに会釈しただけだった。せっかく気を使ってくれているというのに、もう少しわかりやすく感謝を表現できないのだろうか。

チョコの包み紙を開けて口に放り込む。チョコの甘さが口の中に広がり、幸福感すら覚えた。仕事中に食べるお菓子はなぜにこんなに美味しいのか。学生時代に教師の目を盗んで食べたお菓子に通じるものがある。やはり、背徳感は人生における最大の甘味料なのだろう。

そんなことを考えている間も、美瑠希はずっと快人の顔を見つめていた。だが、快人はまったく目を合わせようとしなかった。

「誰にでもあることなんだし、気にしないで頑張ってよ。長崎さんの教育係もまだ終わってないんだからさ」

美瑠希は手の甲で快人の肩を軽く叩いた。それでも快人は目を合わせないまま、二三度顎を引いただけだった。

私は眉を僅かにあげて美瑠希に合図を送った。特に何かを伝えようという意図があったわけでもないが、それで分かってくれるような気がした。

美瑠希は右の口の端を少し上げて、また椅子を滑らせて自席へと戻っていった。

快人は横目でそれを見送ると、手のひらにあったチョコをそっとマウスの横に置いた。

その時、快人の耳が真っ赤に染まっていることに気がついた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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