六本木ヒルズからの七転八倒

【入札編45】「快人が泣いちゃうよ」

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その日の午後。いつものように部屋の中には弛緩した空気が漂っていた。特に何かトラブルが起こることもなく、かといっておしゃべりに花を咲かせることもなく、淡々と仕事をこなすだけの時間だ。

今朝から快人とは仕事以外のことは会話していなかった。雑談程度ならばあったかもしれないが、思い出せないくらいのものだ。美瑠希とも同様にほとんど話をしていなかった。

私は椅子に座ったまま背伸びをしてから、パソコンにロックを掛けて立ち上がった。そのまま部屋を出てトイレへと向かった。職場を出た瞬間の内と外の空気の違いは、得も言われぬ開放感があって気持ちがいい。

さらに開放感を味わうべく小便器で用を足していると、個室から水を流す音が聞こえた。

自分のイチモツをつまんだままそちらに首を向けると、ズボンのベルトを上げながら個室から出てくる榎本の姿が見えた。

榎本は同じAルームで働いている同僚だ。かなりの古株らしく、皆から「さん」付けで呼ばれている。オークション詐欺を発見する名人らしく、本社からも一目置かれているのだと、以前快人が教えてくれた。

「お疲れ様です」

私が用を足しながら挨拶すると、榎本は「うぇーい」とよくわからない返事をした。

榎本が洗面台で手を洗っている横で、私も蛇口を捻った。節水のためなのか、全開に捻ってもちょろちょろとしか水が出ない。

「仕事は慣れた?」

榎本が鏡越しに尋ねてきた。

「はい、それなりに」

ペーパータオルで手を拭きながら答えた。

「でも、美瑠希ちゃんに手ぇ出すのはよくないわ。快人が泣いちゃうよ」

「はぁ?」

榎本は整髪料で固めた前髪を優しく撫でながら、ニヤニヤとこちらを見下ろしていた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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