六本木ヒルズからの七転八倒

【入札編64】中段チェリーを放置するレベル

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しばらくすると、背後で椅子を引く音が聞こえた。首を少しだけ曲げて横目で確認すると、美瑠希がバッグを手に取って立ち上がるところが見えた。おそらく食事休憩に出るのだろう。

その姿を黙って見送り、彼女が部屋のドアを閉じると同時に私も席を立った。

「一緒に食事行きましょうか?」

私は、たった今美瑠希が出て行ったドアの方を指差して快人に言った。もちろん、『一緒に』というのは快人と美瑠希の二人に対しての言葉だった。

快人は聞こえるか聞こえないかの小さな声で「……ん」とだけ唸り、モニタから目を離さない。そのモニタをのぞき込むと、何やらメールの受信フォルダを開き、過去のメールを漁っているようだった。

「何やってんの?」

「……ん?別に」

私が尋ねても、生返事が帰ってくるだけだった。だが、モニタを見つめる快人の姿は、普段よりも遥かに真剣で、静かな闘志を燃やしているように思えた。

「俺はあとでひとりで行くからいいよ」

快人はモニタから目をそらさずにそう言った。私は「そっか」とだけ答え、席を離れた。

快人が何の仕事をしているのか分からないが、こんなチャンスをみすみす見逃すとはどういう了見だろうか。

職場の女性が仕事でミスをして、同僚からなじられた。そして傷心の食事休憩に出た。これをチャンスと言わずして何という。中段チェリーが出現した直後にホールを後にするのと同じだ。今、打たなくていつ打つというのか。

私が部屋を出ると、ちょうどエレベーターが閉まりはじめるところだった。私が駆け寄ると、中にいた美瑠希が慌てて『開』を押してくれた。

「ありがとう」

エレベーターが閉まると、私は美瑠希に言った。美瑠希は少しだけ笑みを作ったが、その瞳は笑ってはいなかった。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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