六本木ヒルズからの七転八倒

【入札編90】訊けない、理由

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「じゃあ僕は昼過ぎまで本社との会議に出てるから、あとはよろしくね。何かあったらいつもの携帯に」

本田は携帯電話を顔の横で振って、颯爽と部屋から出て行ってしまった。

ドアが閉まる音と同時に、大きな舌打ちが聞こえた。その瞬間を見ていたわけではないのに山倉のものだとわった。朝から鼓膜が汚れた気分だ。

「あーあ、信頼されてるヤツはいいねぇ」

山倉は椅子の背もたれに身体を預けて誰ともなくつぶやいた。いや、つぶやきと言うには大きすぎるひとり言だ。そんなくだらないひとり言に付き合ってあげる人はこの職場にはいない。乾いた空気が室内に流れる。

私はサンドイッチを咥えたまま、椅子のキャスターを転がして美瑠希の隣へと移動した。

突然隣に現れた私に驚いて、美瑠希は僅かに身体をビクつかせた。
私が口をモゴつかせながら眉を跳ね上げると、美瑠希は少し引きつったような笑顔を見せて、すぐに視線をモニタの方へと戻した。

「おはよう。薬事法チェック、頑張ってね」

私はそう言って親指を立てて見せた。
美瑠希はモニタの方を向いたまま頬を僅かにほころばせて小さく頷いた。

自分のデスクへと戻り、仕事に必要なツールを次々に立ち上げる。最近、このパソコンも動作が鈍くなってきたようだ。

本当は『快人が休んだ理由に何か心当たりある?』と訊くつもりだった。

だが、山倉たちが同じ空間に居る手前、いや、それ以上に美瑠希のよそよそしい振る舞いに、私はそれを尋ねることができなかった。

胸のあたりに漂うもやもやを、カフェオレで無理矢理流し込んだ。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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