六本木ヒルズからの七転八倒

【初打編05】「クランコっス!」

堀口の背中まであと10メートルほどに迫ったとき、はたと足を止めた。

……マズイ。

約束の時間より遥かに早く着いていたことがバレてしまっては今日という日を心待ちにしていたことを悟られてしまう。実際、心待ちにしていたのだから素直になればいいのだが、人にはそれまで築き上げたキャラクターというものがある。   ここはあくまでも、たった今着いたという体で接しなければならない。マッチ棒のような堀口の背中に、何喰わぬ顔で声をかける。

「よぉ堀口、早いね。俺たった今・・・」

「あれ?水道橋の駅って逆方向ッスよね?どこから来たんスか?」

挨拶もなしにカウンター気味に浴びせられた言葉に狼狽すると同時に、一瞬であらゆるパターンの言い訳を考えた。しかし、そんな私の動揺を知ってか知らずか、彼はすぐさま携帯電話に目を落とした。堀口の思慮の浅さ、というと失礼だが、アッサリした性格に助けられた。これは彼の良いところでもあるのだが。

ホッと胸を撫で下ろし、ふと周りを見渡してみる。到着した時には80人程度だった列が、すでに120人くらいまで伸びていた。一体どこまで増えるか。これまで19年間生きてきて、朝のスロット屋の並びなど意識したことは無かったが、その中に身を投じて初めて気が付くことがあるものだ。

やはり男性客がほとんどで、女性の姿は皆無。年齢層は学生風の若者がメインではあるが、壮年に達したであろう人生の先輩方の姿も見える。それぞれの人が思い思いに開店までの時間を過ごしている。ある者は眉間にシワを寄せてスロット雑誌を読みふけり、またある者はコーヒー片手にタバコをくゆらせる。

大騒ぎすることもなく、かといって静寂が支配することもない。そこにある僅かなざわめきは、これから待ち受ける未来への胸騒ぎのようでもあった。

「クランコっス!」

携帯電話を熱心に見つめていた堀口が突然、流暢な外国語で話し始めた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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