六本木ヒルズからの七転八倒

【初打編09】「20円か」

熟達した動作でリズミカルに遊技する堀口を横目に、私は見よう見まねでストップボタンを押してみた。

――ピロッ ピロッ ピロッ

素っ頓狂な音を伴って、3つのリールが停止した。そこにはスイカやベル、7や鳥などのさまざまな図柄が、まるで幼稚園児のお遊戯のようにバラバラと散らばっていた。

どんな素人でも一瞬で理解できるほど、何も揃っていない。

「……で?」

隣の堀口に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で思わずつぶやいた。私にとっての初スロット第一ゲームは、感慨に浸る間もなく終わってしまった。スロットとはこういうものなのか……と、自分の中で処理し、次の3枚を投入したとき、ふと思う。

「コインって一枚いくらなんだっけ?」

またしても基本的なことを聞いていなかった。私も私だが、堀口も堀口だ。それくらい事前に教えておいてくれてもいいだろう。

「20円っス!だから1ゲーム60円っスね!」

「20円か」

案外安いな……。いや、ちょっと待て。よくよく考えると、一瞬で終わったさっきの1ゲームで60円ということか。ゲームセンターで遊ぶときの100円と比べると、地球の自転と公転くらいの差があるのではないか。

これは安閑としていられない。現状認識を新たにした私は、次のゲームはさっきよりも少しだけ力を込めてレバーを叩き、ストップボタンを押した。

何も揃っていない。

堀口よ、大丈夫なんだろうね?さっき100パーセント勝てると言ったよな?私の中の慎重派な部分が顔を出してきた。気持ちを落ち着けるために、天を仰いで大きめに息を吐く。その視線の先にあるデータロボの左上に、10cm×20cmくらいのノボリが立てられていることに気がつく。

【クランキーコンドル】

そのノボリには鳥のイラストと「クランキーコンドル」の文字が印刷されていた。……3秒ほど考えてやっと理解した。なるほど、この機種の正式名称はクランキーコンドルで、略してクランコなのだな、と。

堀口よ。まったく知識を持たない人間に対して略称しか教えないというのはいかがなものか。「このカワイイ女優さん、誰なの?」と聞かれて「ホマキっス!」としか答えないのか?

堀口の適当さを再認識したところで遊技を再開する。

何度かベルや、JACと書かれたリプレイが揃うものの、数分後、最初の千円分のコインはすべてコンドルの胃袋に吸い込まれてしまった。なんとも食欲旺盛な鳥だ。

想像以上にあっという間の出来事だった。しかし、これくらいで怯むわけにはいかない。次の千円札を投入しようとコインサンドに右手を伸ばすと、隣にいる堀口がリールを指差しながら話しかけてきた。

「コレ狙うんスよ!」

「え?」

→NEXT【初打編10】見える気がしない

  • なんとも食欲旺盛な鳥だ。なんとも食欲旺盛な鳥だ。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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