六本木ヒルズからの七転八倒

【初打編14】三鷹行き

赤く点灯した歩行者用の信号をぼんやりと眺めながら、そんなことを考えた。

信号が青に変わり、日常を生きる人々と共に横断歩道を渡る。駅に着き、券売機の前で財布の中を覗くと、そこには一万円札が一枚控えていた。万が一これが無くなっても、生活が苦しくなるほどの痛手になるわけではない。

――改札を通ってしまえば、あの『非日常』には戻れない

だが、未練など微塵も無いかのような態度で「先に帰るわ」などと言い放った手前、おめおめと戻るのもバツが悪い。券売機の上に表示されている路線図を見上げ、行き先を探すフリをしながら私は静かに葛藤した。

そんな私の葛藤に終止符を打ったのは、予想外の人物だった。

「おにいさん!早くしてよ!」

「あっ……ス、スミマセンッ!」

後に並んでいた初老の御婦人からの一喝だった。ハッと我に返った私は、せっつかれるように券売機に一万円札を滑り込ませる。そして切符を手にした私は、御婦人に軽く会釈をして、逃げるように改札をくぐった。

未練がないと言ったら嘘になるが、今日のところは仕方がない。引っ張られた後ろ髪を振りほどくようにして、私は三鷹行きの中央線に乗り込んだ。

――また、堀口に連れて行ってもらおう。次は1度くらい当たるまで頑張ってみるか

車窓から見える『スロット デルタ』の看板を眺めながら、そんなことを考えた。

こうして、私のスロット初体験は幕を閉じた。

次の日、『ライズ』に出勤した私は、堀口から驚くべき話を聞かされることになる。

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  • あの『非日常』には戻れないあの『非日常』には戻れない

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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