六本木ヒルズからの七転八倒

【失踪編1】龍の入れ墨

「おはようございまーす」

プチマーメイドと戯れた翌日、私はいつものように『ライズ』に出勤した。

「おはよう。長崎クン、早いねぇ」

入り口のドアを開けてすぐ目の前にあるカウンターで、店長の船田さんが昨日の売上金の計算をしていた。

「あれ、まだ店長だけですか?」

「15、16、17万……と、8500円っと。奥にゲンさんいるよー」

店長は鮮やかな手さばきで現金を数え終えると、右手の薬指と小指に挟んでいたボールペンをクルッと回し、日報へと記入した。このダメ人間が集まった『ライズ』において、オープン以来一度もレジの誤差が出たことが無いのも、元銀行員である船田店長の手腕に他ならない。

私が店の奥にある従業員用のロッカーに行くと、ちょうどゲンさんが窓の方を向いてTシャツに頭を突っ込んでいるところだった。一瞬だけ見えたゲンさんの背中には、縦横無尽にうねり狂う『昇り龍』がこちらに睨みをきかせていた。

「ゲンさん、おはようございます」

「おー正吾ちゃん、おはようさん」

ゲンさんは、私を下の名前で呼ぶ数少ない人物の一人だ。しかも『ちゃん』付けで、だ。

「ゲンさん、いつも早いですね」

「いやー、歳取ると早起きになんのよ。正吾ちゃんも俺と同じくらいの歳になったら分かるて。と言っても、まだあと25年くらいあるか」

そう言ってゲンさんは、カッカッカと大きな声で笑った。ゲンさんは四半世紀も後輩である私に対しても威張るところがまったくない。

ゲンさんはこれまでどんな人生を歩み、この『ライズ』に流れ着いたのか。興味はあったが直接聞いたことはなかった。正確に言うなら、ゲンさんの背中に控える『昇り龍』に怖気づいてしまって、聞くに聞けなかったのだ。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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