六本木ヒルズからの七転八倒

【失踪編2】見慣れないマスク

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午前10時。いつもならば開店時刻ギリギリに出勤してくるはずの堀口の姿が、今日はまだ無かった。また千夏さんの家からの出勤で乗り換えに手間取っているのだろう。

「堀口、遅いですね。もう看板出してきちゃいますよ」

「そうだね、よろしく」

雀荘『ライズ』は文京区本郷の小さな雑居ビルの4階にある。毎朝、ビルの前の道路に回転式の看板を出すのだが、これが実に面倒な仕事なのだ。道路上に看板を出しっぱなしにするわけにはいかないので、閉店時には4階の『ライズ』までエレベーターを使って上げなければならない。そして翌朝、また4階の『ライズ』からエレベーターを使って道路まで出す。

看板の足元にはキャスターが付いているのでゴロゴロと押して動かせるのだが、高さが170cm程あるので作業には慎重さを要する。以前、堀口がこの看板を派手に倒してしまい、外側のプラスチック板が粉々になってしまったことがあった。よって今あるコレは二代目なのだ。

――どっこいせっと

1階まで降ろした看板を道路までゴロゴロと押していると、横断歩道の向こうから早歩きでこちらに向かってくる見慣れたマッシュルーム頭が見えた。今日は珍しくマスクなんかしているようだが、あの風貌は間違いない。

「おはよう堀口ぃ、遅刻だ……ぞ」

「……おは……ッス……」

終始うつむき加減の堀口は、寝癖でも隠すように左手で前髪を抑えたまま、ほんの僅かに会釈をしただけで私の横を通り過ぎてしまった。

「……え?お、おい!」

堀口は、まるで私の声など聞こえていないといった素振りで、一人でエレベーターに乗り込んでしまった。

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  • マスクなんか付けて、どうしたんだ?マスクなんか付けて、どうしたんだ?

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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