六本木ヒルズからの七転八倒

【失踪編35】男がスロ屋の女を愛する時【その後4】

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「ほうか!若いモンは成長が早いのぅ!」

男はそう言って欠けた前歯を見せながら笑った。その顔からは、美人局を使い、堀口を殴って50万を恐喝するような悪人の匂いは感じられなかった。

――もしかしたら、この男は無関係なのかもしれない

それは希望的観測かもしれない。だが、それを確かめるべく、私は男の腹の中に半歩だけ踏み込んでみることにした。

「ところで……『千夏』って女、知りませんか?よくこの店でクランコ打ってたみたいなんですけど」

男の顔が一瞬だけ強張ったように見えた。

「千夏?……さぁ、知らんなぁ。その女が何なん?」

そう聞き返されて一瞬答えに窮したが、咄嗟に誤魔化した。

「いやぁ、美人だったんでお知り合いになりたいな~と思って……」

それを聞くと、男は顎を掻きながら

「お前アホか!スロ屋に来てる若い女なんて、全員男付きに決まっとるやろ!それとも何か?その千夏とかいうのはバアさんか?」

低い声で笑う男の顔からは、邪気のようなものを感じることはできなかった。私は頭を掻きながら軽く会釈をすると、男は軽く右手を上げて『ジャグラー』のシマへと身体を向けた。

やはりあの男は無関係なのだろうか。そう思いながら自席へと座り直し、ベットボタンを三回叩いた。その時、またしても両肩に強い衝撃が走った。

「忘れとったわ!兄ちゃん!タバコくれや!」

振り向いたそこには、さっきの男が満面の笑みでこちらを見つめていた。

「あ、僕タバコ吸わないんで……」

男はまるでお菓子を買ってもらえなかった子供のように口を尖らせ、無言で去っていってしまった。

それ以来、私は『スロット ライズ』に行くことはなかった。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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