六本木ヒルズからの七転八倒

【失踪編7】『バイの秋ちゃん』

←BACK【失踪編6】ロン!国士無双!

役満でも出ようものなら、仕事を放り投げて真っ先に現場に駆けつける堀口が、今日はそれをしなかった。原因は未だにハッキリとは分からないが、今朝からの言動を見る限り、本人は相当に参っているようだった。

そんな私の視線に気がついたのか、ゲンさんが私の肩をトントンと叩いた。私が振り向くと、ゲンさんは堀口のいる方を一瞬だけ指差し、今朝と同じように手のひらを上に向けるジェスチャーを見せた。私も手のひらを上に向けて小さく応えた。

「お客さんばかりに勝たれとったら『ライズ』の名がすたるで!正吾ちゃんもイロイロ気にせんと巻き返しや!」

ゲンさんは威勢よく声を上げると、卓の中心にある赤いスタートボタンを押した。

「そうですね」

全自動卓の中からせり上がってきた牌山を対面のお客さんが取りやすいように少し前に出しながら、私はゲンさんの言葉に応えた。私の言葉を聞くと、ゲンさんは右手の親指だけをグッと上げて卓から離れた。

ゲンさんは、胸ポケットに仕舞ってあったタバコをズボンのポケットへと移し、堀口の元へと歩み寄っていった。堀口が清掃しているD卓は、私の対面のお客さんの肩越しにちょうど見える位置にあった。

ゲンさんはD卓を清掃する堀口の横に立つと、右手の人差し指を一本立てた。すると堀口は胸ポケットから自分のタバコの箱を差し出した。ゲンさんは自分の顔の前で手刀を切るポーズを作ると、そのタバコの箱から一本だけつまみ取り、火をつけながら堀口の隣の席にどっかりと座った。

 

「……何ジロジロ見てんの?ボク、そんなに男前?」

突然、対面のお客さんが、私の目をじっと見据えて尋ねてきた。あまりにも私がそちらの方をチラチラ見るので、その視線が気になってしまったようだ。実際にはその肩越しにいる堀口とゲンさんを見ていたのだが。

「あぁ、スミマセン。何でもないです。失礼しました」

「なぁんだ、長崎さんもボクと同じ趣味かと思って期待したのに」

「いや、それも無いです」

そう言うと、卓上がドッと笑いに包まれた。対面に座る『秋山』さんは、男女どちらもイケる――いわゆる『バイセクシャル』――であることは『ライズ』にいる人間には周知の事実だった。通称『バイの秋ちゃん』。だが、最近の言動を見る限りでは、もっぱら男性に対してしか興味がないようにも思えた。

「長崎さん、ひどーい!傷ついたー!」

そう言いながらも大笑いするバイの秋ちゃんの肩越しで、堀口とゲンさんの『相談』とやらが始まっているようだった。

→NEXT【失踪編8】ボク、惚れちゃいそう

  • 赤いボタンを押すと卓の中に牌が吸い込まれていく赤いボタンを押すと卓の中に牌が吸い込まれていく

profile

長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
  • 性別:
  • 誕生日:
  • 血液型:
  • 出身地:
  • 好きなもの:
  • 嫌いなもの:
  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

calender

3月≫
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

戻る