六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編08】「なんで中押ししてるの?」

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私よりも遥かに大きな「あのー」の声が、私の耳元で炸裂した。驚いて振り返ると、そこには不機嫌そうにこちらを見下ろす裕子がいた。

「なんで電話に出ないんですか!!」

「え?掛けてた?」

「掛けてたよ!携帯どうしたのさ!」

私は慌ててズボンのポケットをまさぐり、取り出した携帯電話を開くと、そこには裕子からの着信を知らせるメッセージがこれでもかと表示されていた。

「悪い、全然気が付かなかった」

どうやら木部との電話を切ったときに、無意識にサイレントモードにしてしまっていたようだ。私は顔の前で手刀を立てて裕子に謝った。裕子は呆れたように私から視線を外すと、隣にいる『きのけん』の方にちらりと目をやった。私もそれとなく視線を追いかけると、その先には相変わらずクールに『ローズフラッシュ』を消化するきのけんの姿があった。

私はもう一度携帯電話を開いた。18時を10分ほど過ぎたところだった。

「阿久津さんは元気だった?」

私の問いに、裕子は親指を立てて頷いた。裕子はそのまま私の両肩に手を置き、耳元でささやいた。

「隣の人、なんで中押ししてるの?」

私は自分の台に向き直り、眼球だけを左に動かした。確かにきのけんは通常ゲームを中押しで消化していた。そもそも『ローズフラッシュ』はマイナー台だったため、攻略雑誌にもほとんど紙面を割かれていなかったし、中押しで何らかのメリットがあるという記事を目にしたこともなかった。私はもう一度裕子の方に顔を向けた。

「さぁ?」

私が肩をすくめると、裕子も真似をした。

「まぁいいや。東急ハンズ行きますよ!」

今日は18時には切り上げて買い物に付き合う予定になっていた。私はきのけんに出会えたことで舞い上がってしまっていたのか、すっかり時間を忘れていた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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