六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編103】たかが1000枚、されど1000枚

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「木部っちさ……」

池袋へと向かう西武池袋線の車内で、つり革を弄びながら裕子が耳元でささやいた。

「木部が、何?」

訊き返すと、裕子は自分の肘にあごを乗せる格好のまま、黙って窓の外を眺めた。今朝も抜けるような青空が眩しい。

「あとたったの1000枚だからね。うまく嵌まれば簡単に達成すると思うよ」

質問の汲み取って答えてみたが、裕子は視線ひとつ動かさなかった。

「でも、『なんとしても今日、1000枚プラスにしなきゃ!』って考えると、意外と大変だろうね。最初に高設定台を掴めればいいけど、ダメだった時に慌てて乱れ打ちなんかしちゃったら、余計に負債を抱えて……。そしてAT機なんか適当に打って……で、負のスパイラルになったりして」

そこまで言うと、裕子が顔をこちらに向けた。

「たぶん、木部っちは勝っちゃうと思う。根拠は無いけど」

裕子はまた窓の外へと視線を戻した。石神井公園駅から池袋へ近づくにつれ、少しずつ背の高い建物が増えていく。それに比例して視界が遮られ、遠くを見通すことができなくなっていく。

電車が大きく左にカーブし、池袋駅のホームへと滑り込んだ。降車する人の波が、ホームを一瞬で飲み込んだ。はぐれないように、私は裕子の手を握った。

改札を抜け、宝くじ売り場を右手に見ながら歩く。裕子と一緒に何度も歩いた、『スロット トヨタ』までの通い慣れた道。いつもと変わらない道程のはずだが、今朝は何かが違っているような気がした。それが、変化の早い東京のせいなのか、私の心がそう見せるのかはわからなかった。

明治通りを外れ、大型家電量販店の裏側の道へと入る。『トヨタ』への近道だ。コーヒーショップから漏れる芳醇なコーヒー豆の香りが、空腹を思い出させた。

『トヨタ』に並ぶ客の列が視界に入った時、背後から裕子とは違う女性の声が聞こえた。

「おはようございます」

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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