六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編108】枠下までスベるチェリー

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慣れない手つきでコインサンドに千円札を投入し、吐き出されるコインをおおっかなびっくりといった表情で見つめる五十嵐さんを、裕子は保護者のような目で眺めている。下皿にコインを移し終えると、五十嵐さんはキョロキョロし始めた。

「木部なら『大花火』のシマにいますよ」

私が裕子の肩越しそう伝えると、五十嵐さんは小首を傾げた。

「木部っち、このひとつ後ろの通路にある台を打ってるってさ」

裕子が親指で背後を差しながら補足してくれた。よくよく考えてみると、素人の五十嵐さんが『大花火』といわれて理解できるはずもない。私は裕子に口の動きだけで「ありがとう」と伝えた。

コインを三枚投入し、レバーを叩く。いつもと変わらないスピードでリールが回り始めた。チェリーが枠下まですべってバラケ目が停止した。GOGO!ランプに変化はない。また、コインを三枚投入し、レバーを叩く。この単純な繰り返しが、なぜか心地良い。やはり、私の居場所はここなのかと思わされる。

「だいたいさぁ!」

突然、裕子が大きな声を出した。私と五十嵐さんが驚いて裕子の顔を見る。

「今日、どうして来たの?」

裕子は五十嵐さんの顔を見て言った。

「どうしてって……裕子さんが来いってメールくれたんじゃないですか」

「アタシは別に『来い』なんて書いたつもり無いけど?ただ『木部っち、目標まであと二万円だよ。明日は池袋のトヨタってお店で打つらしいよ』って送っただけじゃん」

「……そうですけど」

五十嵐さんは回り続けるリールに視線を戻して、しばらく黙った。すると、リールが自動停止して、五十嵐さんは驚いたように身体をビクつかせた。それを見た裕子は小さく笑ったあと、手に持ったコインをカチカチと鳴らしながら尋ねた。

「結局さ……どうしたいの?木部っちのこと」

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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