六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編113】『エイリやん』、三次元化す

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『大花火』のシマの方へと消えていく裕子の背中を見送ると、五十嵐さんと顔を見合わせた。

「裕子さんって、不思議な人ですね」

五十嵐さんは裕子が座っていた椅子に右手をつき、こちらに顔を寄せて言った。ほのかな香水の匂いが鼻孔に届いた。裕子が普段使っているものとは違い、柑橘系の香りがした。

「僕みたいな凡人の理解を超えたお姫様ですよ」

冗談めかして言うと、五十嵐さんはくすりと笑った。

「お付き合いして長いんですか?」

私は一瞬だけ回答に躊躇した。もしやこの状況は、期間を短く言っておいた方が良いのではないだろうか、という邪な考えが脳裏をよぎったからだ。だが、そんな考えをすぐに振り払い、指を二本立てたあと、首を傾げながら三本に訂正した。

「やっぱり、それくらい長いと信頼関係も構築されているんですね」

五十嵐さんは憂いを含んだ笑みを浮かべた。自分自身と木部の間には信頼関係が構築されていないという思いがあるのだろうか。私は謙遜と慰めを込めた笑みで返した。二人きりで話をするのは初めてだが、やはり得も言われぬ魅力のある女性だ。少しだけ、――いや、かなり――木部のことが羨ましくなった。

その時、視界の端に殺気を感じた。眼球だけを動かしてそれを視界に入れる。グレーのパーカーを着た女性――裕子が仁王立ちでこちらを睨みつけていた。Sammyの機種に演出で登場する『エイリやん』を三次元化したらきっとこんな風貌になるだろうな、などと愚にもつかないことを思いつつ、私は五十嵐さんの方から無言で身体を遠ざけた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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