六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編114】よそ見していると、ペカる

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二人の間の椅子に手を掛けていた五十嵐さんに対して、裕子は野良犬でも追い払うように手の甲を二三度振った。五十嵐さんは慌てて手をどかし、自席で背筋を伸ばした。裕子はようやく自分の席から邪魔者がいなくなったとばかりに私と五十嵐さんを一瞥してから、椅子に身体を滑り込ませた。

「お二人とも、仲がよろしいようで?」

ステレオタイプな意地悪ばあさんのような口調で裕子が言った。

「別にそういうことじゃないだろ」

「ごめんなさい、わたしが話しかけたんです。裕子さんと仲が良くて羨ましいですって話を……」

肩をすくめて小さくなる五十嵐さんを、裕子は片方の眉だけを下げて「ふーん」と吐き捨ててから、視線で舐めまわした。

「そんなことより、木部と話したのかよ。やけに戻ってくるのが早かったけど」

「もっとゆっくり戻ってきたほうが良かったですかぁ?」

裕子は口を尖らせた。私が「いい加減にしてくださいよ」と嘆くと、裕子は口の端に笑みを浮かべてから、手のひらを上に向けて『お手上げ』のポーズを見せた。

「木部っちに言われちゃった。『先輩たちは社会の底辺なんかじゃないですよ!』だって。そういうつもりで言ったんじゃないんだけどねぇ」

裕子は下皿のコインを台に投入し、レバーを叩いた。五十嵐さんは落胆の色を見せた。

「プロぉ、どうする?」

裕子は第三停止ボタンを親指でグリグリとネジったまま、こちらに顔を向けた。その顔には諦めと後悔の念が滲んでいた。冗談半分で他人の人生に踏み込むものではない。私自身、後悔していた。

「どうにもできないよ。俺たちに今できることは、木部が負けることを祈りつつ、せめて自分たちくらいはプラスで帰れるように頑張ることくらいじゃないか?」

裕子は私の顔を見たまま親指を離した。刹那、GOGO!ランプの中に潜んでいた豆電球がひっそりと明かりを灯した。

「よそ見してると、ペカるよね」

裕子は嬉しそうな顔ひとつせず、淡々と『7』を一直線に揃えた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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