六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編115】漂う、亡霊

←BACK【師弟編114】よそ見していると、ペカる

裕子はビッグボーナスを消化し終えると、無言で五十嵐さんの下皿に100枚ほどのコインを流し込んだ。

「いいから、コレ使って」

裕子が無表情で伝えると、五十嵐さんは「ありがとうございます」と丁寧に礼を言い、遊技を再開した。

この『スロット トヨタ』に入店してからまだ20分足らずしか経っていないというのに、三人の間に重苦しい雰囲気が流れ始めた。『今日だけで1000枚プラスにする』という簡単そうで意外と難しい木部のミッションが、なぜか三人の中では『きっと達成するだろう』という共通認識として亡霊のように漂っていた。私はこの雰囲気に耐えかね、席を立った。

「ちょっと木部と話ししてくるわ」

二人が心配そうな表情を投げかけてきた。私は「安心しろ」と言わんばかりの雰囲気を醸し出そうと、眉を大きく上げた。

木部がいる『大花火』のシマへ足を踏み入れると、そこかしこからビッグボーナスのBGMが耳に飛び込んできた。シマの中ほどにいる木部の背中を見つけた。データ表示機に目をやるが、まだ一度もボーナスを引いていなかった。

「よう木部!調子どうよ!?」

わざとらしいくらいの笑顔を携えて、木部の肩に手を振り下ろした。木部は驚いて身体をビクつかせたが、犯人が私であるとわかると、安堵した表情を浮かべた。

「先輩ッスか。またラッパーみたいな挨拶ッスね」

そう言いながら、木部は紙幣で分厚くなった財布から千円札を取り出し、コインサンドへと手を伸ばした。

→NEXT【師弟編116】外れろ!

profile

長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
  • 性別:
  • 誕生日:
  • 血液型:
  • 出身地:
  • 好きなもの:
  • 嫌いなもの:
  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

calender

7月≫
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

戻る