六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編12】ハロウィンのコスプレ

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「ハイ!軟骨の唐揚げと揚げ出し豆腐、だし巻き卵ね」

おばちゃんが注文を運んできた。

「木部!頭上げろ!料理きたぞ!」

私が木部の頭を小突くと、木部はのっそりと身体を起こした。泣いているわけではないだろうが、目が充血している。私と裕子はひとまず木部を無視して料理に箸をつけた。この店のだし巻き卵は以前から大好物の一品だった。端の一切れ口に運ぶと、当時の記憶が鮮やかに蘇ってきた。

まだ音楽の道を諦めきれずに悶々と過ごしていた日々。夢を語り合って『一休』で管を巻いていた日々。人生のモラトリアム期間に甘えきっていた日々。小説家を目指していた杉本さんたちは、今どうしているのだろう。きっと就職してまっとうな人生を歩んでいることだろう。元々彼らは有名私立大学を卒業しているのだから、それが当然の道だ。

私はどうだ?未だに定職にも就かず、スロットで食い扶持を稼ぐ毎日だ。ギターは部屋の隅でホコリをかぶっている。あの頃と変わっていないのは、この店でもだし巻き卵でもなく、私自身なのかもしれない。

「だし巻き卵美味しいぃ!!」

裕子の感嘆の声で、私は我を取り戻した。

「美味しいでしょ?あの日も食べたと思うけどね。ここに来たら必ず頼んでるから」

裕子は箸を咥えたまま、上目遣いで二三度頷いた。向かいの席では木部が背もたれに身体を預けて呆けている。

「なんだよ木部ェ!なんか言えよ!なに?彼女と別れたの?」

木部の眉が僅かに動いた。だが、それでも木部は何も言わず、口を尖らせて窓の方へと顔を向けた。窓の外には、携帯ショップの前でハロウィンのコスプレをしたキャンペーンガールが客の呼び込みをしていた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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