六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編147】『将来』『結婚』『安定』

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笑い涙を拭うように目尻を抑えながら、五十嵐さんは言った。裕子はキョトンとした顔でそれを見つめている。

「彼が仕事もしないでパチスロなんかやってるなんて、正直カッコ悪いですけど……。でも、裕子さんと長崎さんの関係を見てると、それもアリかなって思えてきちゃいました」

なるほど。褒められているのかけなされているのか、さっぱり判断できない。だが、憑き物が落ちたような五十嵐さんの顔を前にすると、少なくともけなされているのではないことは確信が持てた。

「なんとかなりますよね。今日の結果が出て、彼がどうするのかを聞いてから考えることにします」

五十嵐さんは穏やかな笑みを浮かべ、楽しそうに遊技を再開した。本当にこれでいいのだろうかという懸念は残るものの、本人たちがそれでいいのならば外野が口を出すこともないだろう。私は自分の中にくすぶっていた罪悪感が少し軽くなったのを感じた。

「ところで、裕子さん」

「……何よ」

「彼氏がスロプロって、どんな感じですか?将来に不安とか無いんですか?結婚とか考えないんですか?」

「はぁ!?」

五十嵐さんの唐突な質問に、裕子は露骨にたじろいだ。同時に、私の心の中にある緊急避難警報がけたたましく鳴り響いた。

スロプーにとって――否、私にとって、『将来』『結婚』『安定』の三つは、いわば禁忌――タブーなのだ。うっかりこの会話に巻き込まれてしまったら、間違いなくひきつった苦笑いしかできない状況に追い込まれる。

「ちょ……ちょっと俺、トイレ行ってくるわ!」

まるで尾翼をやられた戦闘機のパイロットが射出座席を作動させるような勢いで、私は席から飛び上がった。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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