六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編161】仕様に、打たされる

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木部は首を傾げて、左手で顎を掻いた。

「そうなんですよねぇ……」

もちろん、木部は私の言葉の意味を全て理解した上で悩んでいる。むしろ、私が言うまでもなく、その問題は木部の頭の中で苔のようにこびりついていたはずだ。

「もうこれでノルマクリアしちゃったんでしょ?」

裕子が私の肩を引き寄せて耳元で言った。

「どうだろう、木部は迷ってるみたいだけど」

私は肩をすくめて答えた。

「なんで?まだ足りないの?もう900枚近くあるんじゃない?」

「全部で850枚くらいかな。投資分の50枚を引いて、この台だけで約800枚はプラスになったね」

「じゃあ終わりじゃん」

吐き捨てるように言う裕子の隣で、五十嵐さんが不安そうに顔を覗かせている。五十嵐さんに理解できるかどうかは分からないが、とりあえず木部が抱える懸念点を説明した。

「要するに、ノルマは750枚のプラスだったでしょ?そして今はプラス800枚。50枚しか余裕が無いわけよ、ボーナス終了直後の『巨人の星』でね」

裕子はようやく事態に気がついて、口を「あー」と開けて顎を上げた。

128ゲーム目までが連チャンの激アツゾーンである『巨人の星』において、ボーナス後の即ヤメなど言語道断。もっての外の行為だ。それを知らないというならば仕方がないが、知っていてヤメるなど、『チチキトク スグカエレ』の電報を受け取った時しか許されない。

かといって、128ゲームまで打つには50枚のコインでは全く足りない。首尾よくビッグボーナスを引けば良いが、引けなければ200枚近くのコインを削られてしまうことになる。そうなるとノルマクリアからこぼれ落ちてしまう。

私は目玉だけを横に動かして木部の様子をうかがった。木部はさっきと同じように顎を掻きながら淡々とボーナスを消化していた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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