六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編162】プロどころか素人以下

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「木部っち、どうすんのかな?」

裕子が耳に唇が触れそうなくらい顔を近づけて、つぶやいた。その吐息が耳の産毛を撫で、私は思わず身震いしてしまった。

「木部の中では決まってると思うぜ。そうじゃなきゃ、プロじゃないだろ」

「それって、どっちってこと?」

「打ち続けるに決まってるじゃん。即ヤメなんてありえないだろ」

「でもそれで、128ゲーム抜けちゃってノルマに足りなくなったらどうすんの?」

「木部だったらここで続行して、キッチリとビッグを引くさ。それでこそプロってもんだ」

私が訳知り顔で言うと、裕子が軽蔑するように眉をひそめた。

「引き弱のプロさんがよく言いますねぇ。正吾がゾーン抜けしてガッカリしてるところ、何百回見たかわかんないよ。木部っちもダメな師匠を持っちゃったねぇ」

裕子は語尾の「ねぇ」に合わせて、五十嵐さんの顔を覗き込んだ。五十嵐さんは驚きながらも引きつった笑みを浮かべた。

その時、台のBGMが変わり、ビッグボーナスの終わりを報せた。今回は16ゲーム以内の連チャンが確定する『キーン』音は鳴らなかった。私は確認のため、もう一度木部の肩を叩いた。

「結局どうすんの?」

木部は右の頬を歪め、MAXBETボタンを叩いた。

「ここで即ヤメするようなヤツは、プロどころか素人以下でしょう!」

そう言って、木部は力強くレバーを叩いた。予想通りの答えに私は少し嬉しくなり、ゆっくりと二三度頷いた。この決断が吉と出るか凶と出るか、それはスロットの神様が決めてくれるだろう。

無神論者のクセに都合の良いときだけ神様を持ち出す私に業を煮やしわけではないだろうが、背後から誰かに強い力で二の腕を掴まれ、そのまま通路に押しやられてしまった。よろめいた私は裕子の肩を借りてなんとかバランスを取った。

私を押しのけた犯人に目をやると、木部の真横で仁王立ちになり、大きく息を吸い込んで、毅然と言い放った。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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