六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編163】「ヤリたい!」

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「その台……わたしがやりたい!」

私を押しのけた犯人は、五十嵐さんだった。嫁入り前の婦女子が公衆の面前で『ヤリたい』などと気軽に言うんじゃありません、と思わないでもなかった。木部の横で腰に手をあてて立ちはだかるその背中からは、並々ならぬ決意がにじみ出ているようだった。

木部は苦笑いを浮かべて彼女の顔を見上げた。

「お前、ジャグラー打ってただろ。どうすんの?」

「あっちはヤメて、こっち打つ。だから、打ち方教えてよ」

五十嵐さんはジャグラーのシマの方を指さしてから、木部の台枠をトントンと叩いた。木部は困ったように眉を上げ、彼女の身体の横から私を見た。やれやれといった表情だ。

「俺は知らないよ。そっちで決めればいいさ」

私は突き放すように言った。だが、それは本心でもあった。もはや私がどうこう言う状況ではないと思ったからだ。

「ねぇ、本当にいいの?木部っちがここで終わっちゃったら……」

裕子が五十嵐さんに耳打ちした。今ここで木部がヤメたら、見事にノルマを達成してしまうことになる、ということを伝えていた。

「いいんです、もう」

それは、諦めとも自棄ともとれる言葉だった。

「わたしジャグラーの方をヤメるんで、裕子さんついて来てもらえますか?こっちの台は空けといてね」

そう言い残すと、五十嵐さんはさっさとジャグラーのシマへと歩いて行ってしまった。裕子もあわててそのあとを追った。私と木部は、その様子を呆然と眺めることしかできなかった。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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