六本木ヒルズからの七転八倒

【師弟編164】ボーナス放出率、約60%

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五十嵐さんの行動の意図は、正直理解できなかった。木部がこのままコインを流してしまえばノルマを達成して晴れてスロプーの仲間入りをしてしまうことになる。それだけはなんとか阻止したいと思っていたのではないのか。女心とスロットの設定だけは何年付き合っても把握するのが難しい。

私は木部と顔を見合わせた。

「ウチの裕子もかなり自分勝手だと思ってたけど、お前の彼女もかなりなモンだな」

「先輩たちがスロットなんか教えるから、あんな風になったんですよ」

「スロットのせいじゃないだろ。俺たちの教え方がまずかったのか?」

「出そうな台を他人から奪い取れとか教えたんじゃないんスか?」

「アホか。でも『巨人の星』はボーナス終了後が熱いとは教えたから、それでか?」

「ホラ!やっぱり先輩たちのせいですよ」

木部は笑いながら言うと、台上のドル箱を膝の上に乗せ、下皿のコインを詰め始めた。木部の顔は、一ヶ月前に居酒屋『一休』で呑んだくれたときよりも、明るくなっているように見えた。だが同時に、この一ヶ月で目の下のクマが色濃くなっているような気がした。

「お前、本当にヤメちゃっていいの?」

私が尋ねると、木部はコインを移す手を止めた。

「128ゲーム以内でのボーナス放出率が約60%ですからね。どうせそろそろ抜けますよ」

ひと掴みごとに下皿のコインが減り、ドル箱のコインが増えていく。その様子をぼんやりと眺めていると、何か大事なことを忘れているような気がしてきた。だが、それが何なのか、うまく思い出すことはできなかった。

下皿のコインが無くなり、木部はそこに自分の携帯電話を置いた。

「んじゃ、流しましょうか。この一ヶ月の集大成ッスよ」

木部は落ち着いた口調でつぶやいた。

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長崎 正吾

  • 名前:長崎 正吾
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  • 1978年生まれ。34歳の夏、職を失う。20代の頃にスロットで生活していたことを思い出し、フラリとホールへ舞い戻る。そのままスロット生活者へ。基本的にはジャグラーシリーズのみを打つスタイル。スロットで糊口を凌ぐ傍ら、iPhone/Android向けアプリ「ジャグラーで喰う技術1&2」をリリース。

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